平成22年1月~12月
司法書士がサラ金の次に企業の残業代をターゲットにしている H22.2月号
●今年は未払い残業代請求が増加するリスクが
~司法書士がサラ金の次に企業の残業代をターゲットにしている兆候があります~
皆様も消費者金融に対する過払い金請求という言葉を聞かれたことがあると思います。ここ近年、弁護士や司法書士などの訴訟代理権のある国家資格者が、テレビやラジオ、電車広告などにおいてしきりに宣伝を行っているのはご存知の方も多いと思います。これはいわゆるサラ金業者が、従来、グレーゾーン金利といわれる高い金利において消費者に貸付け、強引な取立てが社会問題化した中で、最高裁によりこれが否定されたことにより、払い過ぎた金利を取り戻すことをサポートするものです。語弊を恐れずに言いますと、儲け口の対象となった感も否めません。大手の消費者金融の中には経営難に陥り、法的手続きを余儀なくされたところもあります。かといってサラ金業者に同情するつもりもありません。
ただこの過払い金請求バブルは、そろそろ収束する見込みであり、弁護士や司法書士が次の業務ターゲットにしているのが企業の「サービス残業」なのです。特に司法書士は昨今の司法制度改革の中で、簡易裁判所における訴額140万円までの訴訟代理権を獲得しており、比較的弁護士が業とするには手を付けにくい金額ですので、この範囲で司法書士が未払い残業代を従業員に代わって企業へ請求してくることが予想されます。現実に関東においてはそういった宣伝が既に始まっているようです。早晩、関西においてもサラ金問題と同じように、電車広告などに頻繁に登場することは時間の問題でしょう。
もちろん経営者が従業員を使用する最低限のモラルとして、きちんと払うべきものは払うのが当然です。企業もやることはやり、従業員にもやることをやってもらう。これが対等な契約関係であることは論を待たないわけですが、しかし現実的に時間外手当を法的にぎりぎりやると、企業にとって困難な問題が多々あることも事実です。従って、この紙面では如何に法の範囲内で、このリスクを回避してゆくか、ということに絞って、いくつかの対策を考えてみたいと思います。
1.まず無駄な残業を出さないことが肝要
いままでも時間外労働の削減に関しては、多くの紙面を割いてきましたので、その具体的方法は省略しますが、その方法の一つとして時間外労働を事前届出制にして事前規制するのは、一定の効果が期待できます。まずそもそも無駄な残業を出さないことです。
2.外勤者はみなし労働時間制
常態として事業場外で勤務する従業員には、「みなし労働時間制」を適正に運用します。みなし労働時間制とは現実に労働した時間にかかわりなく、そのみなした時間を労働時間として擬制するものです。適正な運用とは、①時間を把握できる管理者とグループ活動をしていない ②外勤といえども携帯やGPSなどで常に時間や居場所を管理されたり指示命令を受けたりしていない ③訪問先や時間があらかじめ指示され、その予定通りに行動を行うものでないことです。つまり一旦外へ出ればある程度の自由裁量が認められている場合は、この制度を適用できます。また私見ですが、あきらかに所定労働時間内ではこなせ得ない業務量を与えているとか、終業時刻後に特段の指示命令を与えていれば、否定される可能性はあると思います。そのようでなければ、みなし労働時間制のもとではそもそも残業代は発生しません。ただ無用なトラブル回避のためには、そのような制度であることの納得性(合意)が必要かと思います。
3.固定残業代
しかしそうは言っても、現実的に夜遅くなることもあり、一切残業代が付かないというのは人情的に納得できないこともあるでしょう。そんな時、営業手当や業務手当など名称は問いませんが、とにかく定額で支給する手当に時間外手当の意味を念のために、付与しておきます。例えば、「第○条 営業手当 営業手当は営業職に従事する従業員に対して、臨時の時間外手当相当額として定額にて支給する」といった具合です。
また外勤者以外の方でも、固定残業代の支払い方自体がいけないことはありませんので、計算の簡略化のために固定で支給することは可能です。但しこの場合は、実際の額と固定額との差額支給の問題は残ります。
4.内込み残業代
内勤者は時間に比例して支給すべきですが、時間外手当をどうしても超過時間に応じて支給できない場合は、現行給与体系を組み替えて、その中に一定の時間分の時間外手当を盛り込む方法もあります。事例を下記に記載します。
前提条件 月給 45万円 1ヶ月平均160時間 込みにしたい残業時間数を45時間/月 とすると
「記載例」
基本給45万円(基本部分 332,948円、時間外45時間分117,052円)
上記の計算式
①45時間×1.25=56.25時間
②45万円÷(160時間+56.25時間)=@2080.92
③@2080.92×160時間=332,948
④@2080.92×1.25×45時間=117,052円 ③+④=45万円
ただしこの方法を取る場合は、今おられる従業員との個別同意が必要であると考えます。何故なら上記の例ですと、本来45万円に加算してもらえるはずのところを、45時間以上残業しないともらえないことになるからで、不利益な変更と言えるからです。導入には慎重な手続きが求められます。
5.管理監督者の適正な運用
いわゆる管理監督者には深夜業を除いて、残業手当や休日出勤手当はもとからありません。ただ管理職=管理監督者ではなく、適切な運用をした場合のことです。適切な運用とは、①経営者と一体的な立場にあること(一定の経営への参画や人事権の付与など)、②役職手当、基本給、賞与査定などにおいて、それ相応の待遇が与えられていること(私見では直近下位の者が時間外労働を行っても逆転しないだけの給与水準を確保する必要があると考えます)、③労働時間が一般社員と同様に厳格に規制管理されていないこと(私見ではタイムカードよりは出勤簿による自主申告管理、微細な遅刻早退で減給しない。しかし何も役員出勤を認めないといけないことはない)。
6.毎年きちんと変形労働時間制の導入を
完全週休2日制か1日所定6時間40分の会社でない限り、週40時間制を達成することができません。つまりほとんどの会社が変形労働時間制といって、1年間とか一定の期間を平均して週40時間以内に収める必要があることになります。そしてこの協定をしていないと出るところへ出れば、土曜日など週6日目の出勤日が、その日自体すべてを時間外労働として計算しなければならない不都合が生じます。例えば1日7時間45分の会社は年間96日以上の休日を付与することで、週40時間制は達成できるのですが、完全週休2日にはなりません。必ず週6日働く週が出てきます。その場合、この協定がないと、もともと出勤日であるはずの土曜日が法的には時間外労働になってしまうのです。
日 月 火 水 木 金 土
1週目 休 出 出 出 出 出 休
2週目 休 出 出 出 出 出 出
※このような休日カレンダーを組んだ場合、本来2週目の土曜日出勤は手当が要らないはずだが、協定がないとこの日全部が時間外労働となってしまう。
これらに関しては、非常にデリケートな問題をはらんでいます。検討されるときはご相談ください。
文責 特定社会保険労務士 西村 聡
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