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6月からの給与(賞与)計算は定額減税が導入されます(2024.5月号) | 社会保険労務士法人ラポール|なにわ式賃金研究所

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2024年1月~12月

6月からの給与(賞与)計算は定額減税が導入されます(2024.5月号)

●6月からの給与(賞与)計算は定額減税が導入されます(2024.5月号)

 

本年6月以降に計算する給与又は賞与から定額減税が導入され、給与計算担当者は事務負担が増えますので、事前準備が必要となります。
今回はその概要と、事前準備に何が必要なのかということと、この問題に対する私見(愚痴)をお伝えします。

なお、定額減税は住民税においても行われますが、これは各自治体が通知してくる決定通知書により控除すれば良いだけで、所得税のように事務担当者が負担することはないため、今回は割愛します。
また所得税における今回の定額減税事務は最終的に年末調整において調整されますが、今回は年末調整は割愛し、月々の給与計算について解説します。

1.定額減税で給与計算する対象者

令和6年の合計所得金額が1,805万円(給与収入2,000万円)以下の国内居住者で扶養控除等申告書を提出しており(甲欄適用者)、かつ6月1日現在勤務している者
※但し合計所得金額が1,805万円(給与収入2,000万円)は12月に確定するものであるから、6月時点ではこれを超える見込みであっても一旦定額減税計算をする
※対象外となるのは乙欄及び丙欄適用者、6月2日以降入社した者、5月31日以前に退職した者
※甲欄適用者である従業員が定額減税の適用を受けるかを自分で選択することはできない

2.定額減税額

(1)本人 3万円  (2)同一生計配偶者及び扶養親族1名あたり3万円
 ※共に、本人の所得税額を限度とする
 ※例えば扶養親族のいない方であれば減税額は3万円、扶養親族が2名いれば減税額は本人分と併せて合計9万円

3.同一生計配偶者及び扶養親族とは

(1)同一生計配偶:令和6年12月31日時点で、本人と生計を一にする年間合計所得金額が48万円(給与収入103万円)以下の者
(2)扶養親族:令和6年12月31日時点で、本人と生計を一にする年間合計所得金額が48万円(給与収入103万円)以下の者で16歳未満の子を含む


ここで注意が必要です。これらの扶養家族のデータは、基本的に令和5年の年末調整時に提出してもらっている令和6年分扶養控除等申告書によって確認することとなるのですが、年末調整の対象となる配偶者または子と必ずしも一致しないからです。

扶養控除等申告書に記載された配偶者は源泉控除対象配偶者であり、今回の定額減税の対象となる同一生計配偶者とは異なります。
同一生計配偶:本人と生計を一にする年間合計所得金額が48万円(給与収入103万円)以下の者
源泉控除対象配偶者:本人と生計を一にする年間合計所得金額が95万円(給与収入150万円)以下の者


つまり配偶者の給与が103万円超から150万円の間であれば、年末調整時の扶養親族としては控除の対象にできるのですが、1人3万円の定額減税の対象者にはならないということです。ですから収入のある配偶者は103万円以下かどうかを確認する必要があります。

逆に年末調整時には控除の対象に出来なかった年少扶養親族(16歳未満の子)は、今回の1名3万円のR定額減税の対象者になります。この辺りがややこしいところで、きちんと扶養親族の仕分けが出来ていないと、誤った計算をしてしまう可能性がありますから要注意です。

例えばこのようなことになるのです。

(Aさん) 
本人年収500万円
Aの配偶者 年収150万円
子1名(小学生)        合計2名分で6万円の定額減税

(Bさん)
本人年収500万円
Bの配偶者 年収103万円
子1名(小学生)        合計3名分で9万円の定額減税 


また6月1日以降に扶養家族の増減があったとしても、それは年末調整または確定申告によって調整することになりますので、月次減税額を再計算する必要はありません。

逆に昨年の年末調整時に提出された令和6年分扶養控除等申告書には記載がされていなかった扶養親族がある場合はこの度新たに作られた「源泉徴収に係る減税のための申告書」に記載してもらうことにより把握することとなりますが、仮にこれが抜けていたとしても、最終的に年末調整で調整されるため、心配は要りません。

蛇足かも知れませんが、6月までに扶養親族の増加があってそれを見過ごしていたいたとしても、年末調整で還付額として反映されるため影響はそれほどないと思っていますが、逆に6月までに扶養親族の減少があってそれを知らずに扶養しているとして月次減税事務を実施した場合、年末調整時に追徴金となる可能性がありできればそれは避けたいはずなので、扶養親族が年初より減っている場合も要注意です。

4.実施方法   

6月以降に支払いのある給与または賞与から月次減税事務開始。6月で減税仕切れなかった場合は翌月以降の計算に順次繰り越して減税(これを月次減税事務という)

(例1)
減税枠 3万円(つまり扶養親族なし)を持っているCさん
毎月の所得税が35,000円
この場合は6月の給与計算で3万円を全額控除できるため次月以降の持越しはなしで、6月で終了

(例2)
減税枠 6万円(つまり扶養親族1名)を持っているDさん
毎月の所得税が10,000円
この場合は6月で引ききれないため、7月、8月と順次1万円ずつ繰越し(つまり6,7,8月は所得税ゼロ)、9月から通常通り10,000円を控除


ただこの月次減税事務は給与計算ソフトを使用している会社であれば、おそらくベンダー企業がシステム改良し、この度の定額減税に対応するものと考えられますが、ソフトを使用している会社は自分が使っているソフトが対応してくれるのか確認しておく必要があります。
ソフトを使用していない会社の場合は、国税庁が公開している「各人控除事績簿」によって管理して行くほかありませんが、結構面倒くさい管理になります。

蛇足ながら、、、、、

最初にこの制度を見た時は、「なんじゃ、こりゃ?」と思いました。なぜこんな複雑で面倒なことを年度の途中から始めるのか?結局最終的には年末調整で調整されるのであれば、年調時に一気にやってしまえば良いし、年内に控除しきれなかった定額減税額は来年自治体から給付されると聞いています。なら、最初から1名3万円のクーポン券を渡せば良いことです。
今年だけのためにややこしい制度を作り、分厚いリーフレットを印刷して全事業所に郵送しているのも無駄です。

増税眼鏡と揶揄され、低支持率にあえぐ岸田首相としては、解散前に何としても減税の恩恵を国民に感じてもらい、今後の政権基盤や解散総選挙を有利に導こうとする意図が見えます。そのために官僚に無理やり制度設計させた突貫工事といった印象です。給与事務担当者やベンダー企業、自治体職員はむしろいい迷惑でしょう。はなはだ愚痴っぽくなりましたが、、、、

 

 

(文責 特定社会保険労務士 西村 聡)

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